「光の芸術」―ステンドグラス《最後の晩餐》


こんにちは。
先週のBAGS/JEWELLERY&WATCHESオークションにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
さて、来週15日(土)は、銀座のシンワアートミュージアムにて西洋美術オークションを開催いたします。今回はステンドグラスがたくさん出品されますのでご紹介させていただきます。

まずはステンドグラスとその歴史について少々。
私たちの生活に身近なステンドグラスですが、その歴史は古く、現在確認されている最古のステンドグラスは9~10世紀にドイツで作られたものだそうです。建物の窓にガラスを入れるという習慣は古代ローマ時代からあったようですので、そのガラスが装飾化されたものがステンドグラスなのでしょう。

制作方法は大きく分けて二通りあり、A.透明ガラスにエナメルやガラス製の顔料で絵や模様を描いて焼き上げるタイプ、B.色ガラスを組み合わせて図柄を表わすタイプがあります。A,Bどちらかの方法でパーツを作り、それを鉛の枠でつなぎあわせることで1枚のステンドグラスが完成します。Aの方法がステンドグラスでは主流で、今回の出品作品もAによって作られています。


ステンドグラスが生まれた時代、芸術は神への捧げものであり、宗教的な主題を表わすものでした。そのため、ステンドグラスにも当然キリスト教の世界が描かれました。ステンドグラスはそもそも、光を通すととても幻想的に見える性質のものですが、キリストの姿や聖書の世界を表わしたそれらを教会の窓に使用することで、窓から降り注ぐ光は「神の光」として人々の信仰の対象になっていきます。

このようにして、ステンドグラスはヨーロッパ中の大聖堂の窓に使用されるようになり、12~13世紀には最盛期を迎えます。パリのノートルダムやイギリスのカンタベリー大聖堂など、ゴシック様式の大聖堂には欠かせない装飾となりました。その後も、各時代の美術の様式が反映されたステンドグラスが制作され、15世紀のルネサンスを機に次第に図柄は写実的になっていきます。そして、その写実的な表現がピークを迎えるのが19~20世紀初頭にかけてであり、ステンドグラスの復興の時代と言われました。今回の出品作品はこの時期に制作されており、とても写実的なのが大きな特徴です。

では、今回の出品作品の中から一点ご紹介いたします。

000054-1_convert_20111006142220.jpg
lot.205 
バランタイン&ガーディナー工房
ステンドグラス
「最後の晩餐」5点組
各218.0×49.0cm
右下に銘
エスティメイト 
★\1,500,000~2,500,000


 
 本作品は、イギリス、スコットランドの首都エジンバラを拠点とするバランタイン&ガーディナー工房によるステンドグラスです。1828年、ジェームス・バランタインによって設立されたこの工房(設立当初の名称はバランタイン&アラン)は、国会議事堂や貴族院の窓を飾るステンドグラスなどを手掛けました。ジェームスの没後は、1925年まで工房名を変えながら3世代に渡って制作を続けていきます。バランタイン&ガーディナーは1893~1905年まで、2代目のアレキサンダーと絵付師ハーバート・ガーディナーが運営した工房です。

 本作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチが修道院の食堂の壁画として描いたことでもよく知られる、新約聖書の4つの福音書に記されたエピソード「最後の晩餐」を題材としたものです。「最後の晩餐」は、ユダヤ民族がエジプトから逃れたことを記念する過越(すぎこし)の祭の席で、キリストが弟子たちと食事を共にする場面を表わしています。この席でキリストは、弟子たちの中に一人裏切ろうとしている者がいることを告げます。この予言によって動揺する弟子たちに、キリストはパンを取り「これは私の体だ」と祝福して分け与え、杯を取り祈りを捧げて「これは私の血、多くの人のために流す契約の血だ」と皆に飲むように勧めました。 

205-2_convert_20111006145023.jpg

左から2枚目:「裏切り者は誰だ?」と耳打ちする        ペテロ(中央左)とヨハネ(中央右) →

 本作品では、キリストを中心に12人の弟子がテーブルを囲むように左右に配置されています。左には「裏切り者は誰なのか」と問うペテロとヨハネ、右端の手前には、驚きの表情を浮かべる裏切り者のユダが描かれています。
銀貨と引き換えにキリストを売ったユダは、ダ・ヴィンチ作《最後の晩餐》のようにしばしば報酬の入った袋を持った姿で表わされますが、ここでも袋を腰に提げています。
 磔刑前夜の晩餐、キリストの衝撃的な一言を受け、弟子たちに波紋が広がっていきます。本作品では彼らの狼狽と困惑、怒りと悲しみといった複雑な感情を繊細に表現し、それとは対照的に穏やかな表情を浮かべるキリストの存在感を際立たせました。人物たちの細やかな心理描写、動と静との対比による迫真のドラマを、卓抜したステンドグラスの技術で写実的に表現した作品です。




     205-3_convert_20111006154114.jpg           205-5_convert_20111006154148.jpg
  ↑中央:パンを差し出すキリスト     ↑右から1枚目:キリストの
                           予言に驚くユダ(手前)



この作品は2メートルを超える大きさですが、今回は聖堂サイズのステンドグラスがたくさんあり、中には5.4メートルの大作もあります。
下見会場では、ぜひ実物をご覧ください。
皆様のお越しを心よりお待ちしています。

オークション・下見会スケジュールはこちら

(執筆:S)