町田久美―強く、しなやかな線


アジア太平洋地域で最大規模といわれる香港の現代美術コンクール、ソブリン・アジア美術賞(The Sovereign Asian Art Prize)をご存知ですか?
本日は昨年この美術賞の大賞を受賞し、世界へと活躍の場を広げている女性アーティスト、町田久美をご紹介いたします。



lot348 町田久美 《からくり》
雲肌麻紙に墨(青、茶)、左下にサイン、印
146.2×190.7cm
エスティメイト HK$300,000-400,000 / \4,000,000-6,000,000

町田久美は、雲肌麻紙、墨、岩絵具といった伝統的な日本画の素材を用いながらも、懐かしさと現代的な要素を併せ持った画風で、今までにない新しいスタイルを確立した作家です。
「VOCA展」(2005年/2007年、上野の森美術館)、「MOTアニュアル No Border-「日本画」から/「日本画」へ」(2006年、東京都現代美術館)をはじめ、オランダ、ニューヨーク、韓国でのグループ展にも参加。今年はドイツのケストナーゲゼルシャフトにて個展、また町田の故郷である群馬県、高崎市タワー美術館においても個展が開催されました。
その他、MoMA(ニューヨーク近代美術館)をはじめパブリックコレクションも多く、国際的に注目を集めています。

町田の作品に見られる生命力を感じさせる筆線は、一見すると一筆で描いたようですが、実際は、墨で緻密な線を何度も重ねることによって生み出されています。大きな作品ともなると一日に数十センチしか進まないこともあり、また、筆圧の強さからくいしばる歯を痛めるのを避けるため、マウスピースを着用して制作しているといいます。身を削り、気の遠くなるような作業により追求した筆線。そこには緊張感が漂い、極度に突き詰めた妥協のない絵画思考が垣間見られます。

今回のオークションでは、3点の作品が出品されています。これらの作品においても、主観や感情が排除された線は一層研ぎ澄まされ、強くしなやかに我々の前に立ち現れます。大胆に取られた余白に、必要最低限の要素で構成された対象物は潔く、画面の中に美しく納まりながらもシュールな印象を湛えています。そのオリジナリティー溢れる作品に、観る者は幻想的な世界に引き込まれ、現実と非現実の間で揺さぶられることでしょう。

昨年のソブリン・アジア美術賞においては、アジア太平洋地域13カ国から推薦された作家の作品、約670点の中から大賞を射止め、ますます国際的な評価を高めている町田久美。今後の活躍が大いに期待されます。
(執筆:M)

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