淡くて優しい・・・夭折の画家、難波田史男の世界


みなさんは「難波田史男」という画家をご存じですか?
もしご存じなくても、近現代の美術がお好きな方ならこの名字にピンとくるかもしれません。そう、彼は日本の抽象絵画を代表する画家・難波田龍起の次男です。

難波田史男は、1941年東京生まれ。父と同様に画家を志し、文化学院美術科で制作活動を始めましたが、アカデミックな美術教育になじめずに中退。その後の数年間は自由なスタイルで制作に没頭し、繊細な描線で幻想的な心象風景を描いていきます。

24歳のとき、自らの絵画論確立のため、早稲田大学文学部美術専修に入学。在学中には初個展を開催し、新進気鋭の画家として将来を有望視されました。以後も旺盛な制作を続けましたが、1974年1月、兄との九州旅行の帰途、フェリーからの転落事故により、32歳の若さで生涯を閉じました。

近代では、佐伯祐三、村山槐多、最近では石田徹也など、若くして亡くなってしまった才能は今も変わらず愛され続けていますが、難波田史男も、そんな根強い人気を誇る画家の一人です。彼が亡くなってからしばらくの間、夭折を惜しむ回顧展が日本各地で開催され、東京オペラシティや世田谷美術館に作品が収蔵されました。近年では、没後30年にあたる2004年に東京ステーションギャラリーで大きな展覧会が開かれています。

難波田史男が画家として生きた約15年の間で、心に生まれた喜びや苦悩を日記のように描いた作品はおよそ2000点と言われています。
今回SUMMER+AUCTIONに出品される《星空(1)》は、シンワアートオークションでは初めての難波田史男作品となります!


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】


lot67 難波田史男 《星空(1)》 
27.0×38.0cm/紙、水彩、インク/1973年作
落札予想価格:20万円~30万円



本作品は、史男が亡くなる前年に描かれたものです。ここに登場する人物らしきものや、星のようでも不思議な生き物のようでもあるかたちは、彼の作品には欠かせないモチーフたち。これらは現実の世界のものではなく、彼の心の中にあるもう一つの世界のイメージなのでしょう。

「夕陽が西の空に沈んでいく
空は青から紫になって
そして黄色に深まっていく
それはひとときも止どまらず
たえず変化していく美
そしてまたたく間に海をさってしまうその美しさ」(史男の「詩」より)

難波田史男は、太陽や星、宇宙に憧れ、しばしば作品に描いています。淡く混ざり合う水彩絵具、その中に消えてしまいそうなかぼそいインク。この作品を描きながら、史男の心は星がきらきらと瞬く夜空を旅していたのかもしれません。