李錠雄(Lee Jung -Woong)


 私たちは普段、生活で目にする風景・人・モノには取り立てて感動しないのに、その実物をそっくり描いた一枚の絵を目にすると「キレイ」と感動の声を上げることがあります。実際は、描かれたものより、本物の風景や、人物、静物の方が生き生きして綺麗かもしれないのに・・・。なかなか実物には感動せず、それを作品にしたものには感動する――ということは、ただその「そっくり」写せる作家の描写力に驚いているだけなのでしょうか?
 最近の韓国の美術界では、どうやら超写実主義(ハイパー・リアリズム)が流行っているようです。今さら?という声もあるかもしれませんが、それは、どれほど「そっくり」描かれたのかを「検討」することだけではなく、作家の集中力や緻密な描写力、高度のテクニックの上に、現代的な感覚を加えた新たなハイパー・リアリズムであることが、多くの人々にこれほどの魅力を感じさせているのだと思います。

 今日は、11月のマカオ(コンテンポラリーアートオークション)に出品される、韓国の作家、李錠雄(Lee Jung -Woong)のハイパー・リアリズムの作品をご紹介します。
 

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Lot 376
李錠雄(Lee Jung -Woong、1963年) 
「Brush」
各167×48cm / 韓国紙、油彩
落札予想価額:HK$330,000-500,000


 李は、「筆」をモチ-フにする超写実的な作品を描く韓国の作家です。彼の作品は一見すると、そのモチ-フや東洋的な「余白の美」から、東洋的な画家と勘違いされやすいと思いますが、彼は大学から西洋画を専攻した西洋画家です。写真のように写実的に描かれた筆や墨の滲みは、長い間静物画だけを描き続けた、対象に向かう作家の粘り強さがよく表現されたもので、韓国紙に油彩でという彼の特徴的な技法が用いられています。
 昨年からはクリスティーズに作品が出品されるなど、最近韓国を含む世界から最も注目されている作家の一人です。

 今回シンワに出品される李の作品は、高さ167cmの2枚セットになっている精神性の豊かな作品です。作品の前に立つと、その恐ろしいほどの精密さや、モチ-フから漂う静かさ、そして西洋の技術に東洋の精神を込めた完成度に圧倒されるのはもちろん、東洋人に生まれてよかったと実感できるのではないでしょうか。皆さん、現代のハイパー・リアリズムをぜひお楽しみください。(執筆者:W)