ルネサンスの花―《ルネサンス期殉教聖女像フレスコ画》


こんにちは。
19日のWINEオークションは、開催日延期にもかかわらず、たくさんのお客様にご来場いただきました。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

さて、今週の26日(土)は、西洋美術オークションを開催いたします。
今回も出品作品の中からおすすめの作品をご紹介いたします。



130  イタリア

                    《ルネサンス期殉教聖女像フレスコ画》

 画面 79.8×54.0cm
(額寸 86.8×61.2cm
 
  落札予想価格 
   ¥1,800,000~¥2,500,000



14世紀から16世紀、ルネサンス期のイタリアでは、宮殿や教会などの公的な建造物、貴族の邸宅のための壁画が盛んに描かれました。「ルネサンスの花」とも呼ばれたこの壁画の制作に用いられたのが、壁の表面に塗った漆喰が乾かないうちに、水で溶いた顔料で絵を描くフレスコ技法です。


キリスト教図像が描かれた本作は、教会の改修の際などに発見されたルネサンス期の壁画の断片と推測されるフレスコ画です。ルネサンス期の壁画は現存するものが少なく、きわめて貴重な一点と考えられます。
こうした宗教画や神話画、歴史上の人物を描いた西洋絵画では、描かれた人物のアトリビュート(持ち物)によってその人物を特定します。本作の女性と思われる人物は、光輪が背後に描かれていることから、聖人(殉教や徳行などによって列聖された人物)ということがわかります。アトリビュートを見てみると、赤い衣を身につけ、左手に本(聖書)、欠損している右手部分に殉教者の象徴である棕櫚(しゅろ)の葉を持っているようです。
これらの条件から、描かれた聖女は、危急時に信者がその名を呼ぶと難を救ってくれるという十四救難聖人の一人、①聖女カタリナ、あるいは②聖女バルバラのどちらかである可能性が考えられます。

①聖女カタリナ
実在の人物かどうかは定かではありませんが、一説には、3~
4世紀にエジプトのアレキサンドリアの貴族の家に生まれた女
性と伝えられています。才色兼備で知られ、若くして洗礼を
受けました。キリスト教徒を迫害する皇帝に逆らったため、
車輪に縛りつけられて身を引き裂かれる刑に処され、最後は
斬首されてしまいました。

この作品は、16~17世紀に活躍したイタリアのカラヴァッジ
ョ派の画家、バルトロメオ・カヴァロッツィ作《聖女カタリ
ナ》です。ここでは棕櫚の葉のほかに、カタリナの重要なア
トリビュートである刃の付いた車輪、剣も描かれています。
また、本オークションの出品作には描かれていませんが、
バルトロメオ・カヴァロッツィ   このように地位の高さを示す王冠を被っていることもカタリ
《聖女カタリナ》         ナの特徴の一つです。




②聖女バルバラ
こちらも実在の人物かどうかは定かではありませんが、3世紀頃に
トルコの裕福な家に生まれた女性と伝えられています。求婚者た
ちから遠ざけるため、美しい娘を溺愛する父によって塔に幽閉され、幽閉中にキリスト教に改宗。異教徒であった父の怒りを買
い、斬首されてしまいますが、父も雷に打たれて亡くなりました。

この作品は、14~15世紀の初期フランドル派の画家、ヤン・ファ
ン・エイクの《聖女バルバラ》(アントワープ王立美術館蔵、ベ
ルギー)です。出品作同様、聖書と棕櫚の葉を持っています。



ヤン・ファン・エイク
《聖女バルバラ》

Lot.130では、カタリナの車輪、バルバラの塔といった重要なアトリビュートが描かれた部分が失われているため、どちらかに特定することができません。しかし、残された部分には、信仰に情熱を
傾け、自らの生命を捧げた美しく清らかな女性の姿が鮮やかな色彩で表現されています。緊張感を孕んだ輪郭線、光と影による立体的な表現も見どころであり、また、聖女の背景や下半身部分にか
つて描かれていた図像を想像するのも本作の楽しみの一つです。

下見会にお越しいただき、ルネサンス期のイタリアを彩ったであろう画家の筆致をぜひ間近でご覧ください。
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皆様のご来場を心よりお待ちしています。
(佐藤)