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川端龍子と金閣寺放火事件―《金閣再現》

朝晩は涼しくなってきましたが、今週は暑い日が続きますね。
9月とはいえ熱中症になってしまうこともあるそうなので、お気をつけくださいね。

ただいま銀座のシンワアートミュージアムでは、明日9月17日(土)の近代美術オークションの下見会を開催しております。
今回はその出品作品の中から1点、川端龍子の掛け軸の大作をご紹介いたします。


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】



Lot.129 川端龍子《金閣再現》
83.0×113.8cm
絹本・彩色 軸装
昭和31(1956)年作
右下に落款・印 
共箱
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書つき
春の青龍社展出品 1956年(日本橋・三越)
エスティメイト ★\1,500,000~3,000,000

 
 川端龍子(1885-1966)は、和歌山県の商家に生まれました。上京後、洋画家を志し、19歳のとき白馬会洋画研究所や太平洋画会研究所に学びます。同じ頃、国民新聞社に入社し、雑誌の挿絵や漫画を手掛けました。文展で入選を果たすなど洋画家として本格的に活動を始め、大正2(1913)年さらに油彩画を学ぶために渡米。滞在中、ボストン美術館で日本の絵巻物とシャヴァンヌの大壁画に深い感銘を受け、一転して日本画を、そして大作主義を志すこととなります。独学で日本画を学び、再興院展への出品を始めると直ちに頭角を現し、昭和4(1929)年には健剛なる「会場芸術」を唱え、その実践の場として青龍社を樹立。自由でダイナミック、ときに繊細巧緻、ときに洋画的といった様々な作風を自在に展開した画家です。

 川端龍子のテーマ「会場芸術」では、展覧会場に映えるスケールの大きさとともにもう一つ大切なことがありました。それは大衆的な感覚と現代性です。「会場芸術」は民衆のための美術行動でしたので、広く一般の人々に支持され、時代の要請に答えるような題材を描くことも必要とされました。そのため、龍子は時事的、社会的な題材を次々に作品に表現していきます。そこには龍子が青年時代、国民新聞社に入社して風刺画を手掛け、美術ジャーナリズムの先駆けをなした経験が生かされており、それは近代化していく時流の中で生まれた新しい日本画と言えるでしょう。

 龍子の時事的な題材の代表作と言えば《金閣炎上》(昭和25年作・東京国立近代美術館蔵)です。雨の夜、猛火に包まれる国宝・鹿苑寺金閣を描いたこの衝撃的な作品は、金閣が放火によって焼失するという昭和25年に起きた事件を描き、2ヶ月後の青龍社展に出品されたものです。龍子は事件翌日の新聞に掲載された写真を見て、国宝が失われたことを惜しむ気持ちや悲しみを感じつつも、描かなければならないという画家としての使命感を燃やしたそうです。
 そして、昭和30年に金閣が再建され創建当時の姿が蘇えると、龍子は待ち構えていたかのように本作品を描きました。昭和31年の春の青龍社展に出品された本作品は、事件のその後を描いたという意味では《金閣炎上》と対をなすイメージと言えるでしょう。ここでは、勢いよく画面を走る大胆な筆の動きと厚塗りのマチエールが、龍子のはやるような気持ちとジャーナリスト的な一面を窺わせます。また、それは「筆致の見えない作品はつまらない」と考え、観賞者が画家の筆技を楽しめるような絵肌の創出を心がけた龍子らしいものでもあります。豊かな緑と輝かしい姿を美しく映し出す鏡湖池に抱かれ、再び眩い光を取り戻した金閣―その麗しい姿を描いた画家はたくさんいますが、「事件」という切り口で捉えた画家はきっと、川端龍子ただ一人でしょう。

下見会場では、そのスケール感をご堪能ください。
皆様のお越しを心よりお待ちしております。

下見会・オークションスケジュールはこちら

(執筆:S)
 

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