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孤高の天才画家・高島野十郎の《水蓮》

みなさまは高島野十郎という画家をご存じですか?
ここ数年、テレビ番組や美術雑誌の特集でご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。近代洋画コレクターの方なら、作品を探してもなかなか手に入らない「幻の画家」として記憶していらっしゃるかもしれませんね。
その高島野十郎の作品が6月26日の近代美術オークションに出品されます!

野十郎は、画壇とは無縁の制作活動を行っていたため、生前ほとんど名前を知られることがありませんでした。彼が脚光を浴びたのは、没後5年を経た1980年のこと。そのきっかけは福岡県文化会館(現・福岡県立美術館)の企画展に《すいれんの池》(1949年作・同館蔵)という作品が展示されたことでした。この1点の魅力によって画家の研究が進み、各地で回顧展が開催され、次第にマスコミで取り上げられるようになっていきます。こうしてようやく高島野十郎という類まれな才能が評価されるようになりました。

今回出品されるのはこちらの作品です。


【オークション終了につき、図版は削除いたしました】


Lot.240 高島野十郎(1890-1975)
《水蓮》
60.6×50.0cm
キャンバス・油彩 額装
1974年作
左下にサイン
裏・裏板に署名
「孤高の画家 高島野十郎展」出品
(2000年/柏市民ギャラリー)
エスティメイト \3,000,000~5,000,000



1890年、野十郎は福岡県久留米市の酒造業を営む家に生まれました。東京帝国大学農学部水産学科(現在の東京大学)を首席で卒業し、将来を嘱望されながらも画家の道を選びます。しかし、師につくことや美術教育を受けることはなく、「世の画壇と全く無縁になる事が小生の研究と精進です」※と決め、個展を主な作品発表の場としました。自ら設計した質素なアトリエで一人制作に没頭し、鋭い観察眼と仏教的な思想により一貫して写実を追究した画家です。
 
水蓮を題材とした作品は、野十郎の発見につながった前述の《すいれんの池》や、死期を悟った画家が遺品として姉に渡した《睡蓮》(1975年作)など、印象的なエピソードとともに現在、数点が確認されています。水蓮は仏教において「蓮華」として浄土を象徴する花。仏教に傾倒した野十郎にとって思い入れの強い題材であり、それを描いた作品には画家の精神性が色濃く投影されたということでしょう。

本作品は、白い花と蕾、複数の葉を池に配し、画面左下に岸に咲く菊を描いたものです。徹底的に凝視し、克明な写実と堅牢なマチエールで表現した情景からは、「花一つを、砂一粒を人間と同物に見る事、神と見る事」※という野十郎の強い信念が伝わってくるようです。またここでは、野十郎は余計なものを削ぎ落とし、極めて平面的に池を描き出しました。よってそれは、夕暮れの空の色と水蓮の影をわずかに映しながら、模糊として深々とした異次元のような空間として見て取れます。この世のものではないような気配と静寂に満ちた池に咲く、白く清らかな水蓮の花。その情景は野十郎が思い描いた浄土の世界なのかもしれません。

※『高島野十郎画集 作品と遺稿』求龍堂 2008年

明日23日(木)から始まる下見会でぜひ実物をご覧ください。
下見会・オークションスケジュールはこちら
皆様のご来場を心よりお待ちしています。

(執筆:S)

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