器の歪み ─ 歪みの美学(志野焼)


一月も半ばに入り、寒さがますます厳しくなってきました。
遅ればせながら、本年も弊社をよろしくお願いいたします。また箸休め的にこちらのブログもチェックしてみてくださいね。

 さて、今年は陶芸の産地毎のそれぞれの見どころをご紹介できればと思います。では焼き物生産量トップである美濃焼(みのやき)の「志野」から。

「志野」というのは、岐阜県多治見市、土岐市、瑞浪市など作られている美濃焼の種類のひとつです。他にも「織部」「黄瀬戸」「瀬戸黒」、「天目釉」など種類が多岐に渡ります。ただこれは基本の種類であって、ここから「鼡志野」、「織部黒」、「鳴海織部」など派生し約15種類にも及ぶそうです。下記の画像でも分かるように艶やかな色が特徴といえるでしょう。
美濃焼4画像450

荒川豊蔵、加藤唐九郎、加藤卓男、鈴木蔵氏などが代表的な作家として挙げられます。
2010年には加藤孝造氏が人間国宝(重要無形文化財保持者:瀬戸黒)に認定されました。
  
 

さて、器の楽しさ、美しさとはどこにあるのか。日々素晴らしい器に触れさせていただく中で、それは器特有の「歪み」にあるのではないかとふと思うことがあります。歪みといっても、単にひしゃげていたり、乱雑に手が加えられたということではなく、たとえば手びねりによる歪み、形態が持つ独特の歪みは否定的な意味を超え、接する者にとって愛着のある美となりえます。
個人的に志野焼は、この歪みが合うように思います。志野の長石釉の美しさは、たとえば有田焼のような凛とした白磁の器の美しさとは全く異なるものです。手に取れば温かみを感じるような土くささが魅力なのではないでしょうか。
 器の醍醐味は、視覚だけでなく、直接作品に触れるという+アルファの鑑賞ができることです。つまり、愛着を持つことにあると思います。
こちらの鈴木蔵氏の《志野白梅皿》の魅力は、雪のような志野の釉薬、ほっこりするような緋色の暖かさといった視覚から感じられるものはもちろん、作家が愛でながら成型したであろう心地よいでこぼこ ─ 「歪み」にあると思います。白梅のモチーフや志野特有の柔らかい釉薬の質感に手で触れることによって、一層温かみが感じられるのです。

オークションの下見会は、見て、愛でる機会でございます。

本年もぜひ、絵画・立体に関わらず、弊社オークションにお足運びいただけましたら幸いです。

(執筆者:E)