夭折の天才・佐伯祐三の《下落合風景》


こんにちは。
東京はいよいよ桜が見頃となってまいりました。
緊急事態宣言が解除となりましたので、お花を眺めながら乾杯したいところですが、今年もお花見はできるだけお散歩で楽しみましょう。
なお、今週のオークションは通常通りご予約なしでご入場いただけます。

さて、今週27日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/戦後美術&コンテンポラリーアートオークションを開催いたします。今回も出品作品の中からおすすめの一点をご紹介いたします。
パリの街頭の風景を狂おしいほどの情熱で描き、30歳という若さで夭折した画家、佐伯祐三(1898-1928)の作品です。


















302 佐伯祐三 《下落合風景》
45.4×53.1cm
板にキャンバス・油彩 額装
1926年頃作
裏に佐伯米子署名・印・年代・タイトル
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『佐伯祐三全画集』(1968年/講談社)№206
『佐伯祐三全画集』(1979年/朝日新聞社)№381
『パリに燃えつきた天才画家の芸術 佐伯祐三 絵と生涯』(1991年/講談社)
落札予想価格 ¥12,000,000~¥22,000,000


1924年、25歳で念願のパリに渡った佐伯祐三は、フォーヴィスムの画家ヴラマンクとの出会いを機にその天賦の才を大きく開花させました。パリの裏街の風景、特に街の歴史と市井の人々の生活感を漂わせる壁をモティーフに自らの芸術を確立しましたが、1926年に一時帰国することを決意します。
一時帰国中は、留学仲間の里見勝蔵や前田寛治らとともに一九三〇年協会を結成し、同年の第13回二科展で二科賞を受賞。さらに個展も開催するなど、再びパリに旅立つまでのわずか1年4ヶ月ほどの間に洋画壇で華々しく活躍しました。また、「下落合風景」や「滞船」を主題とした連作の制作にも精力的に取り組みました。

1926年頃に制作された本作は、東京の下落合(現・新宿区中落合)にある自身のアトリエ周辺に取材した「下落合風景」の連作の一つです。近所の空き地あるいは畑から、木造家屋が立ち並ぶ集落の風景を描いています。生い茂る緑の部分に見られる、疾走するような激しい筆致やペインティングナイフの引っ掻き痕、空に表わされた深みと透明感を湛えた青は、パリ時代の作品に共通する佐伯芸術の魅力を感じさせます。
また、ここではこの連作の重要なモティーフである電柱が3本、集落の中に細くバランスよく配され、画面に垂直のリズムをもたらしています。画面右下にも白い柵が力強く描かれ、佐伯が帰国直前に関心を抱いた線の表現を引き続き試みる様子が見て取れます。こうした線の表現が、再びのパリにて街のポスターをはじめとする様々なモティーフに狂気を孕んで乱舞する線へと昇華しました。さらに、本作では、家屋の簡潔なフォルムを黒の輪郭線で強調しており、それらもまた第2次パリ時代に描かれるモラン風景の連作を予感させます。

なお、「下落合風景」の連作については、佐伯自筆の制作メモが残されています。
この制作メモを分析し、古地図や様々な資料をもとに佐伯作品の描画ポイントを推測されているブロガーさんがいらっしゃいます。その方のブログによると、この作品に描かれた左側の赤い壁の家は、なんと里見勝蔵宅である可能性が高いそうです。
とても興味深い内容ですので、こちらもぜひご覧ください。

ChinchikoPapa様ブログ「落合学(落合道人 Ochiai-Dojin)」より
「『森田さんのトナリ』に住んでいたのは?[気になる落合学]」


佐伯祐三は現在でもファンの多い作家ですが、その作品がオークションに出品されるのはとても希少です。ぜひ下見会場で実際の作品をご覧ください。

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(佐藤)