未完の天才 速水御舟の《白毫寺》


こんにちは。
先週の近代美術PartⅡオークション下見会にご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

先日東京でも桜の開花が発表されましたが、そろそろ全国各地でお花見が楽しめそうですね。
今週の26日(土)は近代美術/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
銀座のオークション会場は、千鳥ヶ淵や日比谷公園からも近いので、お花見の前後にぜひお立ち寄りください。

さて、今回も今週末のオークションの出品作の中からおすすめの作品をご紹介いたします。
この仕事をしていてもなかなか作品に出会えない上に、出会うたびに作風が異なるという、
とても貴重で魅力的な画家の一点です。


s-87
Lot.87 速水御舟 《白毫寺》
57.4×42.2cm
絹本・彩色 額装
大正7(1918)年作
右下に落款・印
小林古径箱
『御舟作品集 中作編』(1970年/便利堂)№7
『速水御舟』(1975年/便利堂)№76
『速水御舟大成[一]明治・大正編』
(1999年/小学館)№108

落札予想価格 ¥8,000,000~12,000,000






速水御舟(1894-1935/明治27-昭和10)は、大正時代の日本画壇に現れた夭折の天才です。
一つの様式に固執せず、次々に新しい作風を展開し、「伝統的な日本画を破壊し、新しい日本画を建設する」という、亡き師・今村紫紅が掲げた目標を実践していきました。

明治27年、東京に生まれた御舟は、14歳のとき松本楓湖の安雅堂画塾に入門します。同門の今村紫紅に憧れて兄事し、気鋭の日本画家たちによる紅児会や赤曜会に参加。23歳の若さで日本美術院同人となり、一躍注目を集めました。大正9年、《京の舞妓》(東京国立博物館蔵)で日本画の領域を逸脱した細密描写へと移行し、画壇に賛否を巻き起こします。その後も、重要文化財に指定された《炎舞》(大正14年作・山種美術館蔵)や《名樹散椿》(昭和4年作・山種美術館蔵)などの制作を通して、新たな美の創造を果敢に追求していきました。

大正5年、敬愛する紫紅を病で失った御舟は、制作に打ち込むべく翌年に京都へ移住します。
その翌々年の大正7年(当時24歳)に制作された本作品は、奈良の古刹・白毫寺(びゃくごうじ)を題材としたものです。山門を挟んで上下に続く長い石段を登り、伽藍のある高台から大和平野や生駒山地を遥かに望む風景が表わされています。現在も白毫寺にはこの山門や石段が残されていますので、本作と同じ構図で風景を眺めることが出来るかもしれません。

本作に見られる、前景の大らかな線描と点描、大胆に省略された形、さらに画面上部に向かって階段を下りる不思議な構図は、紫紅が追求した南画の様式を取り入れて独自のアレンジを加えたものでしょう。その一方で、中景から遠景の潤いに満ちた色彩と色面による描写は、大和絵風の情趣に富み、写実的な眼差しも見て取れます。
このように南画と大和絵を融合させた作風は、横山大観や下村観山らから絶賛されたという、御舟の出世作《洛外六題》(大正6年作・焼失)と共通するもので、紫紅からの影響を踏まえ、次のステップへ進もうとする画家の強い意欲を感じさせます。
また、ここでは御舟が南画の連作に多用した黄土色に加え、群青色と緑青色を主調としており、その画業において短くも異彩を放つ「青の時代」(大正7~8年頃)の始まりを予感させます。

本作品は、ただいま開催中の下見会にてご覧いただけます。
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皆様のご来場を心よりお待ちしております。

(佐藤)