ガレの愛した黒いガラス―《エナメル彩蜉蝣と蝉文花器》


こんにちは。
10/9(土)の戦後美術&コンテンポラリーアートオークションにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

さて、今週の23日(土)は、西洋美術/BAGS/JEWELLERY&WATCHESオークションを開催いたします。今回も出品作品の中から、おすすめの一点をご紹介いたします。
アール・ヌーヴォーを代表する芸術家、ガレのガラス作品です。当ブログでは、以前家具をご紹介しましたが、ガレの真骨頂といえばやはりガラスです。



367   ガレ

《エナメル彩蜉蝣と蝉文花器》
H18.6×W20.4cm
底部に陰刻銘

落札予想価格 
¥3,000,000~¥4,000,000

 







フランスのナンシーに生まれたガレ(1846-1904)は、哲学や文学、植物学、鉱物学などの知識を礎に、ガラス作品を主として陶器、家具など、幅広い分野に創造力を発揮しました。透明感のある淡青色の月光色ガラスを開発し、マルケットリー(ガラスに色ガラスを象嵌し、再び加熱して模様を作る方法)などの技法で特許を取得。1900年のパリ万博ではガラスと家具の両部門でグランプリを受賞。ジャポニスムや自然主義、象徴主義など、19世紀後半の時代の精神を様々に反映した作風は、国内外から高く評価されました。

本作は、透明ガラスに蜉蝣(かげろう)と蝉(せみ)を浮彫りで表現した花器です。余白部分に漂う黒褐色の靄は、グラヴュールで黒色の被せガラスを丹念に彫り、地文様としたもの。見どころは、アプリカッシオンの技法で色ガラスを熔着して研磨した蜉蝣の羽と蝉の胴部でしょう。それは宝石のような深みのある輝きを湛え、黒色が用いられた器体の中で神秘的な美しさを醸し出しています。また、器の底部には自身のサインとともに図案化された昆虫の絵が刻まれており、ガレの自然への愛着をうかがわせます。
なお、モティーフの蜉蝣はガレが繰り返し作品に描いた昆虫であり、羽化するとわずか数時間で死んでしまうため、生命あるものの儚さを象徴しています。それは、移ろいゆく季節に思いを馳せ、自然の中に息づく様々な生命を愛でる日本人の美意識に通じる感覚、そして、人間の内面世界を動植物の姿に託して表現する象徴主義など、ガレの研ぎ澄まされた感性と彼が影響を受けた思潮を色濃く感じさせます。


 

 

 

 

 

蜉蝣の羽に施されたアプリカッシオン。                        底部にはサインとかわいらしい昆虫の図。
羽の透明感が細やかに表現されています。


花や風景がきれいな色で表された花器も魅力的ですが、本作は繊細で複雑なニュアンスに富んだ19世紀末のガレ芸術の魅力が凝縮された名作です。美術館ではガラスケース越しにしか鑑賞することができませんが、当社の下見会では直接実物をご覧いただけます。

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(※オークション当日は下見会を開催いたしませんので、ご注意ください)

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

(佐藤)