石田徹也―僕たちの自画像―展 &《作品,2001》のご紹介


 土曜日の近代美術PartⅡオークションにご参加くださった皆様、ありがとうございました。連休初日ということで、たくさんのお客様にお越しいただき、とても活気のあるオークションになりました。

 さて、今週はいよいよAsian Auction Week in Macao、コンテンポラリーアートオークションとなりました!初めての海外オークションということで、スタッフはみな気合い十分で臨んでおります。マカオでは本日15時から下見会がスタートしますので、現地にお越しの皆様はぜひお立ち寄りください。いつもブログを書いている私たちは、東京に残って情報を更新していきますので、今ブログをご覧の皆様はたとえマカオにいらっしゃっても、毎日チェックしてくださいね!

 今回のオークションカタログをお持ちの方はご存じかと思いますが、表紙を飾っているのは石田徹也の大作です。石田徹也といえば、現在、練馬区立美術館で展覧会が開催されていますが、もうご覧になりましたか?私も先日展覧会に行ってきましたので、今日は石田徹也のお話をさせていただきます。

 石田徹也(1973-2005)は、静岡県生まれ。武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。キリンコンテンポラリーアートアワード98奨励賞や、VOCA展2001奨励賞などを受賞し、作家として活躍し始めた2005年の春、31歳という若さで急逝しました。翌年、NHK「新日曜美術館」で紹介されたことをきっかけに注目を集め、放映日当日のうちに遺作集の注文がインターネットの通販サイトに殺到したといいます。以来、多くの人々に支持され、現在は最も人気のある作家の一人と言っても過言ではないでしょう。
 
 石田徹也の主要作品およそ70点が集まったこの展覧会は、東京では初めての大きな個展です。展示は、遺作集の表紙を飾る《飛べなくなった人》(1996年作・静岡県立美術館蔵)からスタート。石田らしい有名な作品や、「これも石田?」という意外な作品まで、およそ年代を追って構成されています。まるで私たちの社会の縮図を見ているような共感やショックを感じながら、次第に石田の心の奥深くへと入っていくような感覚を覚えました。静岡で開催された展覧会をご覧になっていない方は、ぜひどうぞ。昨年11月の当社のオークションに出品された作品も展示されています。

【 開催概要 】
石田徹也―僕たちの自画像―展
会期  2008年11月9日(日)~12月28日(日)
会場  練馬区立美術館
http://www.city.nerima.tokyo.jp/museum/

 
 では、今週のコンテンポラリーアートオークションの出品作から、本日も1点ご紹介いたします。もちろん石田徹也の作品です。

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  Lot.353 石田徹也《作品,2001》
  キャンバス、油彩
  112×162 cm
  2001年作
  石田徹也追悼展「漂う人」出品 2006年(ガーディアン・ガーデン)
  エスティメイト HK$ 500,000 ~ 700,000


 2001年、VOCA展で奨励賞を受賞した年に制作された作品です。描かれているのは、鉄柱がむき出しになった建設中の建物。周囲には工事用の堅固な足場が組まれています。その囲いの中に、白いワイシャツにネクタイという出で立ちで、まるで建築資材の一部のようにすっぽりと収められた二人の人物。一人は何かを諦めたように目を閉じ、もう一人は虚ろな眼差しでどこか一点を見つめています。石田自身にもよく似た彼らは、作品に必ず登場して機械や日常の風景と合体した姿で描かれ、この物哀しい表情を浮かべるのです。石田は自らの制作ノートの中でこう語っています。「自分だけでなく、他人や社会の問題も取り入れて自画像をつくる。」つまり、この人物たちは、石田の自画像であるとともに、現代に生きる私たちの自画像なのです。その姿はまるで、「現代社会における様々な問題にからめとられて身動きできず、しかしそのなかで生きていくしかない個人の悲しみや、辛さ、孤独を表している」ようです。(『静岡県立美術館ニュース』 第86号より)
 
 鋭敏な感性で現代人の悲哀を痛々しいまでに描き出しながら、制作においてもう一つ、石田が求めていたことがあります。それは、「悩んだ部分を見せびらかすのではなく、それを笑いとばすユーモアやナンセンスのようなもの」でした。本作品でも、巨人化した人物がシュルレアリスム的な雰囲気やそこはかとない滑稽さを漂わせています。目を背けたくなるような現実の中にもある滑稽さ、作品に表現されたその複雑な状況が、より強いリアリティーをもって多くの人々の心に訴えかけているのかもしれません。

                                           (執筆:S)