こんにちは。夏休みは各美術館でさまざまな企画が催されていますが、今日はその中から日本画の展覧会を一つ、ご紹介いたします。
現在、平塚市美術館では「市制80周年記念展 上村松園と鏑木清方」が開催されています。上村松園と鏑木清方は当社のオークションでもおなじみの作家ですが、ともに「西の松園、東の清方」と並び称された近代を代表する美人画の巨匠です。
松園(1875-1949)は京都で生まれ、江戸時代の風俗や伝統芸能をテーマに理想の女性像を表現し、昭和23年には女性として初めての文化勲章を受章しました。
一方、清方(1878-1972)は東京神田に生まれ、挿絵画家として出発した後に歌川派の浮世絵の系譜を継ぎ、江戸の下町風俗を情緒豊かに描き出した画家です。
この展覧会では松園30点、清方45点を一堂に展示し、二人の初期から晩年にいたる画業を紹介しています。
<上村松園>
図版1 図版2
図版1 《花下美人図》 明治30年頃作
松園が22歳頃に制作した作品です。この作品のような季節の花を愛でる美人は、浮世絵にも多く見られる伝統的な主題です。ここでは、身近な若い女性を写生することを通して、その表情だけでなく華やかで初々しい雰囲気をつぶさに描き出しています。
図版2 《桜可里図》 昭和11年頃作
同じく桜を愛でる女性像ですが、こちらは画業の後期、61歳頃に制作されたものです。眉を剃り、子どもがいることを示した「青眉」(せいび)の女性(左)と若い女性(右)は親子でしょうか。花とともに人生の花の季節を謳歌する二人の幸福そうな姿には、普遍的な女性美が表現されています。
ご紹介した2点は、以前当社のオークションに出品されたことのある作品で、約1年半ぶりに展覧会場で再会することができました。このほかにも、今回の展覧会には《花がたみ》(大正4年作・松伯美術館蔵)や《楊貴妃》(大正11年作・松伯美術館蔵)といった代表作が出品されています。(※一部展示替えあり)
<鏑木清方>
【オークション終了につき、図版は削除いたしました】
図版3 《鰯》 昭和2年作、東京国立近代美術館蔵
清方が49歳のときの作品です。関東大震災の後、復興していく東京からは江戸下町の名残が次第に失われていきました。その中で清方は、古き良き江戸の市井の人々の姿や暮らしぶりを懐かしむように数々の風俗画を描きました。この作品のように鰯売りの少年が佃島から京橋界隈を売り歩く姿は、夏から秋にかけての風物詩だったといいます。
図版4 《春雪》 昭和21年作、サントリー美術館蔵
この作品は戦時中、清方が疎開先に運んで制作し、終戦の翌年(当時68歳)に完成させたものです。その後、同年の第一回日展に出品されました。雪の降る中、武家の女性が外出から戻った夫の羽織をたたんでいる様子が描かれています。梅や水仙の花が配された女性の着物から春の気配が伝わってくるようです。
清方もこのほかに、《深沙大王》(明治37年作)、《朝涼》(大正14年)(ともに鎌倉市鏑木清方記念美術館蔵)といった名作の数々が出品されています。
ほぼ同じ時代に活躍した二人の美人画をこうして同時に鑑賞する機会は意外と少なく、思いがけない共通点や相違点が発見できます。夏休みは美人画の名作を鑑賞しながら夕涼みなどされてみてはいかがでしょうか。
「市制80周年記念展 上村松園と鏑木清方」
会期 2012年7月21日(土)~2012年9月2日(日)
会場 平塚市美術館
開館時間 9:30~18:00(入館は~17:30)
休館日 月曜日
ホームページ http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/
(佐藤)