川端龍子、大陸を描く―《北斗》


こんにちは。
新緑のまぶしい季節となりました、とよく言いますが、丸の内から見える皇居の緑は本当にまぶしいくらい鮮やかです。関東~九州地方は来月上旬には梅雨入りするようですので、この過ごしやすい季節を楽しみたいですね。

さて、来週24日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/コンテンポラリーアート オークションを開催いたします。
今回も出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。
日本画の型を破るダイナミックな大作で知られる、川端龍子の掛軸です。



 180  川端龍子(1885-1966)
 《北斗》
 144.8×56.9cm(軸装サイズ252.4×79.0cm)
 絹本・彩色 軸装
 1938(昭和13)年作
 右下に落款・印
 共箱
 東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
 「第八回龍子個展 駱駝行」1938年
 (日本橋三越)出品


    落札予想価格
    ★¥500,000~¥800,000











1885(明治18)年、和歌山県に生まれた川端龍子は、19歳のとき洋画家を志し、白馬会洋画研究所や太平洋画会研究所で油彩画を学びます。その傍ら、新聞・雑誌の挿絵や漫画の仕事を手掛け、人気作家となりました。第1回・第2回の文展に連続して入選すると、さらに油彩画を研究するため、1913(大正2)年に単身渡米。ボストンに滞在中、日本の絵巻物とシャヴァンヌの壁画に深い感銘を受け、帰国後は日本画に転向します。直ちに再興院展(日本美術院)で頭角を現しましたが、主義主張の違いから脱退し、1929(昭和4)年には「健剛なる芸術」の創造を唱えて青龍社を設立。自らの理想である「会場芸術」を実践した圧倒的なスケールの大作やジャーナリズム精神溢れる先進的な作品、ときには温かく繊細な花鳥画を描き、つねに大衆に目を向け、現代に相応しい日本画のあり方を探究し続けた画家です。

    
   内蒙古の夜には北斗七星が頭の真上に燦々と輝いていた。航海者には良き見当の星座ではあ  
  るが、砂漠の船――駱駝の旅も亦この星を羅針として続けるのだそうだ。伝説の成吉思汗(ジ
  ンギスカン)の義経もその南攻西征に矢張り此の星を頂いての遠征だったろう。
            (川端龍子「出品解説」『第八回龍子個展出品目次』大塚工藝社 1938年)

満州事変以後、戦時色が次第に強まる時局の中で、1937(昭和12)年から4年間にわたり、川端龍子は中国大陸での日本の政策をテーマとした「大陸策」の四部作に取り組みました。この時期は、軍の嘱託画家として毎年中国各地を訪れ、その取材をもとに四部作の大作を自らの主宰する青龍展に出品する一方、旅先で出会った風物を描いた作品を個展で発表していきます。後者は戦意高揚のための絵画というより、中国大陸の雰囲気を国民に伝えることや大陸的心境を表現することを目的としたものであり、現代性や現場主義を重んじるという龍子のジャーナリズム精神が反映された作品群となりました。

本作は、1938(昭和13)年の中国北部への旅での取材に基づいて制作され、同年の「第八回龍子個展 駱駝行」に出品された作品です。駱駝のキャラバンという題材はまさに個展のテーマを象徴するものであり、この年の「大陸策」の連作においても、源義経とジンギスカン(チンギス=ハン)を同一人物とする説に基づき、駱駝と鎧武者を題材とした《源義経(ジンギスカン)》(第10回青龍展出品作)が制作されています。上に引用した龍子の言葉は本作に寄せられたものですが、義経=ジンギスカンに思いを馳せており、本作が《源義経(ジンギスカン)》との関連の中で描かれたことが想像できます。

そして、本作では休息を取る駱駝、旅の目印となる北斗七星が美しく輝く夜空が豪放な筆致で表されています。暈しとたらし込みの描法により、駱駝の体の形態や量感を巧みに捉えるとともに、夜空の部分に墨だけでなく金泥を刷き、地面となる部分に砂子を蒔くことで、作品の装飾性を高めています。龍子の大胆さと繊細さが同時に表現された作であり、果てしなく続くかのような夜の砂漠の壮大なスケールと旅のロマンを色濃く漂わせています。

 

 

 

 



参考図版:第10回青龍展出品作《源義経(ジンギスカン)》(大田区立龍子記念館蔵)


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ぜひ下見会で実際の作品をご覧ください。
このほかにも、オーストリアの古城を描いた東山魁夷の名作、デュフィやローランサンなど、鎌倉大谷記念美術館旧蔵の外国絵画が出品されますので、こちらも会場でご覧ください。
※23日(金)、24日(土)の下見会はございませんので、ご注意ください。

ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

(佐藤)