いよいよ4月!花粉症に辟易されている方も多いと思いますが、やはり暖かくなってくると気分も明るくなってくるものですよね。桜前線も北上し始め、春が本格的になってきました。
さて、近代美術PartⅡ、中川一政コレクション/近代美術に引き続き、三週連続で開催される今回のオークションは、近代陶芸/近代美術PartⅡ(陶芸)です。
今回ご紹介したいのは、こちらの作品です。
魯山人は希代の芸術家としてよく知られており、破天荒なイメージが強い作家ですが、初期には真摯に“写しもの”を手掛けていました。乾山、仁清、織部、志野、染付、赤絵。朝鮮や中国にも渡り、古陶磁の研究も行ったそうです。
それは、「何より料理を生かす食器を作るなら出鱈目なものは作れない」という強い信念を持っていたからだといいます。器が良くなれば、料理も美味しくなる。器を作りたいが為の作陶ではなく、あくまでも料理が主であったが故に、魯山人の作風は上手い下手とは違う領域にあるように感じます。また、たとえ写しであっても、魯山人の豪胆さは隠せず溢れ出ていると思います。
“武蔵野”は、野々村仁清の「色絵武蔵野茶碗」(根津美術館蔵)に見られるように昔からあるもので、“月”と“秋草”が主なモチーフです。魯山人は鉢以外でも、幾度となく屏風や行燈などを制作しています。
今回の「武蔵野鉢」は最晩年の作とされています。特に秋草がしっかりと描かれ、全面を覆っているのも珍しいと言えます。深さがあり、実寸より大きく見えるのも魅力のひとつです。
“武蔵野”の集大成とも言えるような作品ではないでしょうか。
また今回のオークションには、「宮之原謙」をコレクションしていた方から、まとめて数多くの作品をご出品頂いています。
宮之原謙(1898-1977)は、帝展や日展を中心に活躍し、独創的なデザインと優れた技術によって、昭和期の陶芸界に新風を吹き込んだ作家の一人です。
鹿児島で生まれた宮之原は、父の勧めで二代宮川香山に師事し、陶芸の道に進むこととなります。
29歳の時、東陶会の結成に参加し、板谷波山の薫陶を受けます。同じ頃自宅に「冨竹窯」を開窯し、1929年第10回帝展にて初入選を果たしました。
宮川香山と板谷波山という近代陶芸の先駆者から受けた影響は大きく、彩磁や象嵌を得意としました。宮之原の生み出した色や形は、“昭和モダン”と呼びたくなるような、品のあるレトロな雰囲気を漂わせています。
宮之原作品が一度に多く出品されることはなかなかありませんので、ぜひ宮之原独自の世界観を味わいにいらしてみてはいかがでしょうか?
(執筆者:E)
参考文献:「魯山人味道」平野雅章編(中央文庫)
「伝統と創造 魯山人とゆかりの名陶展」世田谷美術館/1996年