こんにちは。
今年も各地でいよいよ梅雨入りが始まりましたね。
紫陽花の開花前線も北上しており、6月らしい季節となってきました。
さて、今週末に「近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡオークション」が開催されます。
今回はその中から漆芸作品についてご紹介したいと思います。
漆器制作が盛んな土地といえば、石川県です。石川県は輪島塗をはじめ、山中塗、加賀蒔絵の金沢漆器など伝統技術が今日まで受け継がれてきています。今年初めの震災で大きな被害を受けられたと思いますが、以前のように漆器制作が潤うことを願わずにはいられません。石川県の中でも金沢市では1978(昭和53)年から名誉市民の認定が行われていますが、第一号に認定されたのは、漆芸作家の松田権六(ごんろく)でした。
1896(明治29)年に金沢市で生まれた松田権六は、加賀蒔絵を近代の作家作品として昇華させました。権六は7歳のころから、仏壇職人であった兄から蒔絵制作を習い始めています。1914(大正3)年に石川県立工業学校(漆工科描金部)を卒業し、同年には東京美術学校(現東京藝術大学)の漆工科に入学しました。卒業後、同学校の助教授となり、法隆寺夢殿内に新調した救世観音の厨子の漆塗装監督を務め、戦後には東京藝術大学の教授に就任し、正倉院御物の髹漆品調査を行うなど国を代表とする漆芸作家になりました。そして1955(昭和30)年に蒔絵の技術で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、漆の神様“漆聖”と謳われるまでに至りました。
本作は、1970(昭和45)年に制作された中次(なかつぎ)と呼ばれる薄茶器です。蓋には、青貝(鮑の貝殻)が玉虫色に輝いている部分が使用され、鑑賞者を引き込む美しさがあります。また側面は、研出(とぎだし)蒔絵という技法を用いて流水紋が描かれています。研出蒔絵とは、漆で文様を描き、その漆が乾く前に金銀の粉を蒔いて乾いた後に粉固めし、その上から再度漆を塗って乾燥させ、研いで文様を表す技法です。権六は、荒い粉を使用するという工夫を行い、研出蒔絵に取り組んだことで知られています。古来の技法を研究し、さらに独自に進化させた巧みな技が詰め込まれた作品と言えるでしょう。
そして、古美術オークションでは、華やかな蒔絵とは違い、闇(やみ)(黒)蒔絵と呼ばれる技法で制作された棗が出品されます。
闇(黒)蒔絵とは、盛り上げた黒漆で絵を描き、その上からまた黒漆を塗ったもので、華やかな蒔絵の棗とは異なり、漆黒のなかにほのかに浮かび上がる文様が優美な蒔絵です。本作品は、江戸中期の大名茶人であり、石州流不昧派を創始した出雲松江藩(現・島根県)七代藩主・松平不昧(ふまい)【宝暦元-文政元(1751-1818)】が自分の好みの意匠を、漆工に指示し作らせたものです。不昧には、原羊遊斎や小島漆古斎といったお抱えの漆工がいたことでも知られています。本作の作家はあきらかではありませんが、かなりの技量を持った漆芸家であると言えるでしょう。
旧蔵者は、肥前国平戸藩(現・長崎県)の旧藩主・松浦(まつら)家。松浦家は、不昧と同じく石州流から武家茶道鎮信(ちんしん)派を創始した松浦鎮信(しげのぶ)【元和八-元禄十六(1622-1703)】を筆頭に、多くの茶に優れた藩主を輩出しました。本作は武家茶道の「きれい寂び」に見合い、大切に伝世されてきたことが分かります。
そのほかにも、加守田章二《青い壷》落札予想価格:500万円~800万円や、『大正名器鑑』に掲載されています《唐物茶入 鶴子》落札予想価格:1,500万円~2,000万円など、なかなか見ることのできない作品も出品されますので、ぜひ下見会場へ足をお運びください。
*下見会・オークション会場、スケジュール、そのほかの注目作品はこちら。
オークション前日と当日は、下見会を開催しておりませんので、お気を付けください。
なお、ご入札はご来場のほか、書面入札、電話入札、オンライン入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。お待ちしております。
(江口)