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今週末に「近代陶芸/古美術/近代陶芸PartⅡオークション」が開催されます。ある程度湿度のあるこの季節には、乾燥を気にせず安心してお勧めできる作品をご紹介いたします。梅雨の室内を華やかにさせる菓子器と、夏の茶室に涼を誘う竹掛花入です。
日本古来の輪島塗や京漆器とは違い、江戸時代後期に高松松平家の命により生まれたのが「香川(高松)漆器」です。鞘塗師(さやぬりし)であった玉楮象谷(たまかじぞうこく)(1806-1869)が、中国漆器や東南アジアの漆器の技法を研究しその基礎を作り上げました。以来長きにわたり高松は多くの漆芸家を排出しており、その筆頭に挙げられるのが音丸耕堂(おとまるこうどう)です。
音丸耕堂(本名・芳雄)は、明治三十一年(1898)に高松市で生まれました。実兄・山下光雪、実弟・山下楊哉も共に漆芸家です。耕堂は、13歳の時に讃岐彫の名工・石井磬堂(けいどう)(1877-1944)の元へ弟子入りし彫刻の技術を学びました。その後、伯母の音丸家に養子に行き、独立後、玉楮象谷の作品から独学で彫漆を学んでいきます。
彫漆とは、漆を何層にも塗り重ね、削り、彫り下げ、形作る技法の事です。音丸は、多くの色漆を創り出し、豊かなグラデーションと巧みな彫りにより、器体に重厚感ある華やかさをもたらしました。実際手に取るとその軽さに驚かされ、いかに薄く塗り重ね上げられたものかを実感できます。今回の「菓子器」も塗りの期間におよそ3カ月かかっており、計算された順番で51もの色漆が丁寧に塗り重ねられています。その類まれなる技量により昭和三十年(1955)に「彫漆」で重要無形文化財保持者の認定を受けました。
この“カトレヤ文様”は、昭和六十一年(1986)、88歳の時に新作として発表され、以後亡くなる前年の平成八年(1996)、98歳に到るまで制作され続けたモチーフです。年齢をまったく感じさせない、最晩年のキレのある彫漆作品をぜひご覧ください。
さて、皆さんは先週まで開催されていた上野の東京国立博物館・特別展「茶の湯」をご覧になられたでしょうか?その中で松平不昧の茶が江戸時代の「古典復興」の一つとして紹介されていましたが、今回の古美術オークションでも松平不昧の掛花入が出品されます。
「松江藩中興の祖」と称される出雲松江藩主、松平不昧(ふまい)【治郷(はるさと)】【寛延四年-文政元年(1751-1818)】は、江戸後期の茶の湯文化を牽引した大名茶人として知られています。藩主となった十代の頃から茶の湯や禅を学び、茶禅一味を基礎として自らの茶道観を確立しました。また、茶道具の蒐集と研究にも力を注ぎ、『古今名物類聚』を著したほか、藩内の美術工芸の振興を図り、お抱えの陶工や塗師たちを指導して優れた好み物の数々を制作しました。
本作は、白竹を用いた不昧自作の尺八花入です。下部の正面やや右側に現れた一筋の染みが美しく、三節からなる端正な姿の景色となっています。そして、その裏に記された「宗納造」の銘は類例が少なく貴重であり、不昧の美意識がよく表現された自信作であることを窺わせます。なお、平成三十年(2018)は不昧公二百年忌にあたり、本作は茶事の話題の要ともなる花入と言えるでしょう。
シンワアートオークションにぜひ足をお運びください。
執筆者:E