松本竣介の子ども像―《コップを持つ子ども》


こんにちは。
5/22(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/戦後美術&コンテンポラリーアート/BAGS/JEWELLERY&WATCHES/MANGAオークションを開催いたします。
緊急事態宣言下となりますので、新型コロナウイルスの感染予防対策として、会場にご入場いただける人数に定員を設け、予約制とさせていただくことにいたしました。
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新型コロナウイルス感染予防対策について

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
では、今回も近代美術オークションの出品作品の中からおすすめの1点をご紹介いたします。



560   松本 竣介
《コップを持つ子ども》
35.5×27.5cm 
板・油彩 額装
1942年作
右下にサイン・年代
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
『松本竣介画集』(1963年/
平凡社)№56

『松本竣介油彩』(1978年/
綜合工房)№100


落札予想価格
★¥3,000,000~¥5,000,000








松本竣介(1912-1948)は、都会の風景や建物、人物などを題材とし、絵具を薄く幾重にも塗り重ねた堅牢な色面と繊細で意志的な線描により、清澄で詩情豊かな作品を生み出した画家です。戦中から戦後の過酷な時代に一人の画家としての活動を模索し、執筆によってもその尊厳を訴え続けましたが、病気のため36歳という若さでこの世を去りました。

本作は画面右下の年記より、1942年1月に制作された子ども像です。
この時期は自画像や女性像なども手掛け、代表作として知られる《画家の像》(宮城県美術館蔵)、《立てる像》(神奈川県立近代美術館蔵)、《三人》という大作を二科展に3年連続で出品しており、人物の主題の充実期であったことがわかります。

本作の題材である子どももまた、この頃3歳になろうとする愛息をイメージの源泉とし、好んで描かれました。ここでは、西洋の古典絵画の描法を取り入れ、褐色を基調とした何種類もの色彩を塗り重ねて深みのある色面をつくり出し、対象の量感や質感を巧みに表しています。さらに、レンブラントのように明暗を強調してコップを持つ子どもの姿を画面に浮かび上がらせてもいるようです。

その一方、自身で「線は僕の気質なのだ」*1)と語ったように、伸びやかな線描によってフォルムを捉え、ユーモラスな雰囲気を画面にもたらしています。特に、飲み物をこぼさないようにコップを大事に抱える左右の手に画家の関心が注がれ、その幼児らしいふくよかな手が実に表情豊かに描かれています。耳の不自由な竣介にとって、手は重要な「コミュニケーションの手段」*2)であり、多くを語るものであったのでしょう。愛するわが子を見つめる父の眼差しを感じさせる作ですが、竣介は本作をはじめとする油彩の子ども像のために数多くの素描作品を残し、また、子ども像が可愛らしくなりすぎないよう配慮していたことも知られており、無垢な子どもの普遍的なイメージを表現しようとしていたことをうかがわせます。

なお、本作は『松本竣介油彩』(綜合工房)に「第1回新人画会展」(1943年)の出品作として掲載されています。同会は表現の自由が制限され、画材の入手も困難となった戦時中、「人間として最小限の自己主張をしたい」*3)と集まった8人の画家の作品発表の場として結成されました。開催された展覧会はわずか3回でしたが、自身の芸術を模索し、描くために生きた若者たちによる作品と活動は現在も語り継がれています。

下見会にお越しの際は、竣介らしい味わい深い線と西洋の古典を見事に消化したマチエール、そして「手」にご注目ください。
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また、今回は5ジャンル同日開催となるため、オークション当日の下見会は開催いたしませんので、ご注意ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。


(佐藤)

引用文献
*1
)松本竣介『人間風景 新装増補版』中央公論社 1990
*2
)田中淳「松本竣介淀橋区下落合四丁目のアトリエのなかで」『画家がいる「場所」
         ―
代日本美術の基層から』ブリュッケ 2005
*3
)麻生三郎「旧新人画会展より『新人画会』の今日的意味」『美術グラフ』11巻第9
        1962