小出楢重のガラス絵―《裸女6番》



こんにちは。
先週は近代美術PartⅡオークションにご参加いただき、誠にありがとうございました。
今週は東京で桜の開花が発表されましたが、満開は30日頃とのこと。
毎年のことですが、1日でも長く咲いていてくれますように…と祈ってしまいます。

さて、今週28日(土)は中川一政コレクション/近代美術オークションを開催いたします。
今回も出品作品の中からおすすめの一点をご紹介します。

106106-1
楢重が設えたと言われる額装

Lot.106 小出 楢重 
《裸女6番》
3.6×5.5cm
ガラス・油彩 額装
1929年作
右下にサイン・年代
裏に署名・タイトル・年代

文献:『楢重硝子絵集』№17(求龍堂)
         『日本の名画36 小出楢重』№22(講談社)
    『小出楢重画集』№V30(東方出版)    ほか多数
展覧会歴:1948年 「第33回二科展 小出楢重回顧展」(東京都美術館)
          1965年 「小出楢重」(国立近代美術館京都分館)
                 1980年 ある画家の生涯と芸術展 小出楢重(兵庫県立近代美術館)     ほか多数
落札予想価格 ★¥1,000,000~2,000,000

小出楢重のガラス絵です。
皆さんはガラス絵をご存知でしょうか?
ガラス絵とは、ガラスの一方に絵を描き、反対側から鑑賞するもので、13~14世紀頃ヴェネチアで生まれ、ヨーロッパで流行した後、日本には江戸時代に伝わったといいます。
日本では当初「びいどろ絵」と呼ばれ、西洋の風景や風俗、浮世絵の美人画や役者絵などが描かれたそうです。

本作品の作者、小出楢重(1887-1931)は、「裸婦の楢重」と称され、日本女性の裸体の美を追求した画家です。
大阪に生まれ、東京美術学校日本画科で下村観山に学んだ後、西洋画科に転科。1919年《Nの家族》(大原美術館蔵)で二科展に初入選し、樗牛賞を受賞しました。1924年大阪に信濃橋洋画研究所を設立。43歳という若さで亡くなりましたが、関西を中心に活躍し、独特の「日本人の油絵」を生み出しました。

楢重は夜店の古道具屋で浮世絵風のガラス絵に出会い、その個性的でプリミティブな味わいに心惹かれ、収集を始めたといいます。1919年頃には自分でも作るようになり、油彩画同様、主に日本女性をモデルにした裸婦を描きました。

本作品は「裸婦の時代」と称された芦屋時代、1929年(当時42歳)に制作されたガラス絵です。
没後の第33回二科展で特別展示され、現在まで多数の展覧会に出品されてきた、楢重のガラス絵の代表作です。
横たわる裸婦の胸から大腿部にかけての滑らかな曲線とヴォリューム感、そして肌の健康的な色つやが、光沢のあるガラスの質感と濃厚な色彩によって表現されています。当時は支那寝台と呼んだ中国風のベッドと傍に敷かれた赤い絨毯がなんともエキゾチックな雰囲気です。

そして、この絵画としての充実度からは俄かに信じられないのですが、なんと作品の大きさは3.6×5.5cmというマッチ箱サイズ。
でも、小さなことには意味があります。
楢重はガラス絵の魅力について、
「小さなガラスを透かして来る宝石のような心ちのする色の輝きです。」
(「グワッシュとガラス絵」『みづゑ 第244号』美術出版社 1925年)
と、語っています。
宝石ゆえに、このような小さなサイズを選び、自ら古道具屋で探したというおしゃれな額で装飾したのですね。歳月を経ても輝き続ける宝石のように、昭和初期のモダンな香りを、今も変わらず濃密に漂わせています。

現在、本作品は下見会場にてご覧いただけます。
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皆様のご来場を心よりお待ちしております。

(佐藤)