国吉康雄 哀歓のアメリカン・ドリーム


こんにちは。
先週の近代美術PartⅡ下見会にお越しいただいた皆様、誠にありがとうございました。
先日東京にも木枯らし1号が吹き、すっかり寒くなりましたね。
都内ではそろそろ木々が色づき始め、通勤途中や外出先で紅葉のきれいな場所を見つけるのが楽しみになってきました。

さて、今週19日(土)は近代美術/近代美術PartⅡオークションを開催いたします。
このたび、オークションではあまり目にすることのない国吉康雄の作品が3点出品されることになりました。
近代美術のカタログでは特集を組みましたが、当ブログでもご紹介いたします。

国吉康雄(1889-1953)は、アメリカと日本、二つの国の間で揺れながら、「アメリカン・シーンの画家」として活躍した人物です。日本では今日まで定期的に展覧会が企画され、近代美術を代表する画家のひとりとして評価されてきましたが、アメリカにおいても没後60年以上を経た今、注目を集めています。
昨年には、スミソニアン・アメリカ美術館(ワシントンD.C.)にて没後最大規模の回顧展「The Artistic Journey of Yasuo Kuniyoshi」が開催され、およそ44万人という動員数を記録しました。エドワード・ホッパーやジョージア・オキーフと並ぶアメリカの20世紀美術を代表する画家として、その再評価が進められているようです。

国吉康雄とは…
 新天地への夢を抱き、17歳で単身アメリカに渡り、労働者として働きながらワシントンやニューヨークで美術を学びました。やがてフォーク・アートに通じる素朴な作風で評価を得て、1930~40年代には憂愁の漂う女性像を、戦後は鮮烈な色彩によるサーカスの主題を展開。1952年にはヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ代表に選ばれるなど、その画業はまさしくアメリカン・ドリームを体現したものであり、戦前から戦後にかけての美術界を牽引する存在にまで上り詰めました。
 しかし、その成功の一方で、国吉が生涯アメリカの市民権を得ることはなく、日本人移民排斥や第二次世界大戦といった度重なる苦難に苛まれ、アメリカと日本の間に立つ者として激動の時代に翻弄された画家でもあります。


s-116



116 《カフェの女》

32.8×26.1cm
紙・パステル、鉛筆、コンテ 額装
左上にサイン
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付

落札予想価格

★¥8,000,000~15,000,000







 
カフェやバーで酒を煽り、煙草を燻らせる女性像は1930年代に多く描かれたモティーフ。国吉康雄というと、こうしたアンニュイな女性像をイメージされる方も多いのではないでしょうか。
本作のように、都市生活者の孤独や寂寥感を表現した作品は、当時多くのアメリカの人々の共感を呼んだといいます。灰色を主調とする本作では、国吉らしい螺旋状のタッチが見て取れ、所々に塗布された白色の効果によって画面は光を含み、女性の都会的な雰囲気が引き立てられています。


s-117

117 《黒い花瓶》
76.1×51.2cm
キャンバス・油彩 額装
1925年作
左下にサイン
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『国吉康雄画集』(1978年/求龍堂)№36
『YASUO KUNIYOSHI ネオ・アメリカン・アーティストの軌跡』(1990年/福武書店)№120

落札予想価格 ¥3,500,000~6,000,000






1925年(当時36歳)のフランスへの長期旅行中に制作されたものでしょうか。滞在中、国吉は友人のジュール・パスキンから、新しい主題に挑戦することと対象を目前にして描くことを勧められ、新たに静物とサーカスの女の題材に取り組みました。
本作ではフォーク・アートとキュビスムの手法を取り入れ、花やテーブルを複数の視点から捉えて構成し、クニヨシ・ブラウンと称された豊かな茶色を用いて平面的に描き出しています。その背景となる、黒く塗り込められたカーテンの奥の空間は謎めいた雰囲気を醸し出し、花の存在感と独特のデフォルメを際立たせるようです。


s-118

118 《A BLONDE》
30.5×22.9cm
板・カゼイン 額装
1946年作
右上にサイン
東京美術倶楽部鑑定委員会鑑定証書付
『YASUO KUNIYOSHI ネオ・アメリカン・アーティストの軌跡』(1990年/福武書店)№297

落札予想価格 ¥10,000,000~18,000,000







第二次世界大戦後の1946年(当時57歳)に制作された本作は、カゼインによる作品です。カゼインは牛乳に含まれるたんぱく質からなるメディウムで、国吉は1940年頃から、速乾性がありマットな質感に仕上がるこの素材を好んで用いました。
本作の頬杖をつく姿は、国吉が繰り返し描いたポーズであり、女性は何かを思い悩んでいるように見て取れます。しかし、明るい色彩の背景のためか、戦時中までの女性像がまとっていた絶望感や悲しみは薄れ、その表情には未来への希望や期待感も淡く漂うようです。

国吉は、自身が描く女性像を、「Universal Woman」(普遍的女性像)と呼びました。
退廃的で憂愁を帯びたこの女性像は、大恐慌から第二次世界大戦へと続くアメリカの世相を反映したものであり、社会の周辺で懸命に生きる女性たちがモデルとなっています。また、その作品には、時代の荒波に揉まれ、アメリカと日本の間で苦悩し葛藤する国吉自身の姿も重ね見ることができそうです。

ぜひ下見会場で国吉康雄の「Universal Woman」をご覧ください。
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皆様のお越しを心よりお待ちしております。

(佐藤)