今日は、最近出版された話題の美術書をご紹介いたします。
『印象派はこうして世界を征服した』
(フィリップ・フック著/中山ゆかり訳、白水社、2009年7月刊)
この本は、ヨーロッパの老舗オークションハウスでオークショニアを勤めた後、画商、美術業界の風刺小説やミステリーの著作も手がける著者が、印象派の評価にまつわるヒストリー&マーケットの話を語るものです。
7月20日に刊行されて早速入手し、ワクワクしながら一気に読みましたが、オークションに関心のある方ならきっとお楽しみいただける内容になっています。
前半の印象派に関するヨーロッパ各国での受け止め方の違いは、様々な記事や手紙を盛り込んで臨場感にあふれ、「フランス文化崇拝のアメリカ人」や「伝統的なフランス嫌いのイギリス人」、が登場。ロンドン在住の著者のウィットに富んだ文体が効いています。
印象派を擁護した画商・デュラン=リュエルのエピソードには、一つの美術の動向に、プロデュ―サー的役割を果たすギャラリーがいかに重要なのかを教えてくれます。
後半は、ジャクリーン・オナシス(ケネディ大統領未亡人)が、海運王オナシスからウェディング・プレゼントとしてルノワールを落札してもらうシーンや、ヨーロッパのオークションハウスの重役たちが日夜交わす駆け引きを描き出しています。
英国のエリザベス女王が始めていらしたオークションでは、会場にロックフェラー、フォード、リーマンといった時の富豪の一族が勢ぞろいし、ルーズヴェルト元大統領夫人と女性実業家のヘレナ・ルビンスタインが隣同士で着席していたとか。
オークションは、社会的成功を収めた富豪の社交場であり、印象派の絵画は、誕生から1世紀をかけて、そこでトロフィーのように取引されていくようになるのです。
本の主題は印象派の評価の変遷ですが、間接的にオークションの魅力を華麗に伝えてくれる、スリリングなドキュメンタリーでもある一冊です。
(井上素子)