中国は旧正月である春節を14日に迎え、街頭や百貨店には巨大な縁起物が設置されたり、夜になると華やかなイルミネーションが点灯するなど、お正月の賑やかな雰囲気が街中に溢れています。上海当代芸術館(上海MOCA)では周鉄海が個展を、また上海美術館では巨大なインスタレーションで国際的に活躍する張洹(ジャン・ホァン)、日本からは日野之彦が個展を開催するなど、アート界も多いに盛り上がっています。
梁月《まだ宵ながら 明天》2006/35分
さて、今月19日より28日までの10日間、東京都写真美術館にて「第2回恵比寿映像祭 歌をさがして」が開催されています。これは映像とアートの祭典で、東京都写真美術館全館をはじめ、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場、渋谷街頭のモニターを用いて世界各国のアーティストや専門家による展示、上映、ライヴ・イベント、講演、トーク・セッションなどが行われます。その中で「上海派対(パーティ):中国若手作家特集」と題して上海を拠点に活動する30代の若手作家、楊福東(ヤン・フードン)、梁月(リィアン・ユエ)、宋涛(ソン・タオ)の作品が紹介されます。
先日のブログでもご紹介した楊福東は、原美術館での個展が現在も開催されている他、最近はプラダの広告映像に起用され話題になりました。この広告は《First Spring》という9分間のモノクローム映像で、公式サイトにて配信されています。ファッションブランドの新作のプロモーションでありながら、1930年代の上海の華やかな時代を想起させる設定が新鮮であり、楊福東の世界観を味わうことができます。また今年8月からはじまる「あいちトリエンナーレ」にも参加が決まっており、ますます今後の活躍が期待されるアーティストの一人といえます。
PRADA – First Spring
http://www.prada.com/firstspringmovie
今回上映される《シティ・ライト City Light》(2000年7分)は国際的な映像作家としてスターダムにのしあがる前の楊福東の初期作品のひとつで、上海をモティーフに様々な伏線が絡み合い、後の楊の作品世界を予想させるようなこだわりの強い作品となっています。
一方、梁月(リィアン・ユエ)は1979年上海生まれの女性作家です。2001年上海大学美術学院卒業後、第3回上海ビエンナーレにおけるグループ展への参加を機に、写真や映像作品を中心に活動しています。主な国際展に「China Now」(2004年、ニューヨーク近代美術館)、第2回広州トリエンナーレ(2005年、広東美術館)、「The Thirteen: Chinese Video Now」(2006年、P.S.1)、「南京インディペンデント映像祭」(2009年、南京)などがあります。
今回の映像祭では《愛しの夾竹桃 I love Oleander》(2007年22分)、《まだ宵ながら 明天》(2006年35分)が上映される他、22日(月)にトークイベントが開催されます。
前者は身近な人間関係をテーマにした日常のひとコマを描いた作品です。タイトルの夾竹桃とは、上海では街路樹としてよく知られていますが、作家によると、上海の排気ガスにまみれ、汚れた空気の中でも存在している姿がなぜか愛おしく、自分の仲間たちの姿と重なってしまうところからつけたとのことです。
後者は数々の映画祭や映像祭に取り上げられた初期作品でもあり、恋愛やパートナーとの生活、結婚や性について、考えさせられる作品となっています。
梁月《愛しの夾竹桃 I love Oleander》(2007年22分)
宋涛(ソン・タオ)は1979年上海生まれ。1998年上海美術工芸学校卒業後、2004年からジー・ウェイユーとのユニット「Bird Head」として映像作品や写真作品を制作する一方、個人での活動も活発に行っています。国内外の展覧会に多く出品する他、2004年にはCCAA(中国当代芸術賞)にて評議員特別賞を受賞しました。
今回の上映作《フロム・ラスト・センチュリー From Last Century》(2004年34分)は宋涛がかつて住んでいた浦東という地域をテーマにしています。ここは新興開発地として大きな道路や高層ビルが立ち並ぶエリアではありますが、その「陳腐な」都市開発に違和感を覚え、生命力のない浦東をテーマにしたといいます。
東京都写真美術館の石田留美子さんによると、今回は上海の都市としての魅力と、上海が抱える問題を提示するプログラムとして、70年代生まれで、中国現代アートの隆盛期に国際的に活躍した50~60年代生まれの世代と、超現代的な80年代以後世代の“はざま”にいる世代に注目して、この3名を選ばれたとのことです。楊福東作品については、当初から上の世代とは異なる独自のスタイルをとっている楊福東が、後に世界的スターになる要素を含んでいる初期作品を紹介する機会を作るため、この作品を選んだそうです。また、いずれも2000年から2007年まで、オリンピック開催前の中国の姿を映した作品という点も意識しているとのことでした。
急速に経済が発展している上海の状況は新聞やニュースでも度々取り上げられていますが、彼らの作品を日本で見られるこの機会に、上海のリアルな一面をアート作品から感じ取ってみてはいかがでしょうか。(執筆:M)
展覧会情報
『第2回恵比寿映像祭 歌をさがして』
会期:2009年2月19日(金)~28日(日)
開催時間:10:00~20:00
会場:東京都写真美術館 全フロア、恵比寿ガーデンプレイス センター広場 他
「上海派対 シャンハイ・パーティ:中国若手作家特集-梁月(リィアン・ユエ)、宋涛(ソン・タオ)、楊福東(ヤン・フードン)」
2月22日(月) 19:00~21:00 ※トークイベント付き/梁月(リィアン・ユエ)
2月26日(金) 11:00~13:00
出品作品■梁月(リィアン・ユエ)《愛しの夾竹桃 I love Oleander》2007/22分■宋涛(ソン・タオ)《フロム・ラスト・センチュリー From Last Century》2004/34分■梁月(リィアン・ユエ)《まだ宵ながら 明天》2006/35分■楊福東(ヤン・フードン)《シティ・ライト City Light》2000/7分