今日は、アートへの視点をちょっと変えて、買うことは出来ないけれど無料で見られるアート、「パブリックアート」をご紹介します。
<副都心線のアート>
シンワアートオークションで取り扱っている作家の作品が、地下鉄の構内で壁面を飾っているのをご存知ですか?
東京メトロ副都心線の駅では、渋谷から池袋までの8駅のあいだに、14のパブリックアートがあるのです。
中山ダイスケ《新宿躑躅(つつじ)》
@東新宿駅 B4F改札
各作品の脇には、テーマや、作品が設置された駅に対する作家の思いが綴られた言葉がキャプションパネルとして貼られています。
副都心線の駅は近未来的な雰囲気が漂い、美術品の鑑賞にはピッタリの空間が広がっています。
<駅員さんご自慢のアート!>
絹谷幸二《きらきら渋谷》
@渋谷駅 B3F 13番出口付近
この作品は、アクリル無しでむき出しの凹凸が壁面を飾っています。
絹谷作品にしばしば登場する音楽モティーフや文字を書き込む手法も見られます。
JR渋谷駅の周辺は、若者文化の中心地というイメージがありますが、絹谷の描き出す渋谷は現代版「春の小川」なのだそうです。
作品からは春を謳歌するエナジーがほとばしっています。
千住博《ウォーターフォール》
@新宿三丁目駅 B2F 高島屋方面改札前
どの作品も非常に分かりやすい場所にありますが、私が一か所見つけられずに駅員さんにお尋ねすると、とっても嬉しそうに
「○○さんの作品ですね!!それならここを出て・・・あ、でもこっちからの角度も良いですよ!」
と誇らしげにご説明下さいました。
まるで、ご自身の家の自慢の絵について尋ねられた、美術所蔵家の方のようでした。
副都心線では上記のほか、宮田亮平、木村光佑、山口晃、天津恵、山本容子、吉武研司、武田双雲、野見山暁治、大津英敏の作品を見ることができます。
<パブリックアートの歴史>
以上見てきたように、公共空間に展示される作品はどれも大作です。
こうした大型の絵画作品、過去には1930年代のニューディール政策下でパブリックアートが多く発注され、その影響でポロックやデ・クーニングら約40万点の作品が生まれたという歴史があります。
これは市民の生活に美術を身近にする効果や、作品の大型化という流れを導きました。
公共空間に設置される作品、という点ではミケランジェロの彫刻も、皇居外苑の《楠公像》も、同一のカテゴリーに入ります。
しかし、それらが権力者の富や力を誇示したり権威を象徴したりするものであったのに対して、ポロックや絹谷幸二の作品は、市民に同時代の美術を浸透させる目的を持っているのです。
今度、駅や公園でパブリックアートに出会ったとき、こういった視点でご覧になってみて下さい。身近にある作品がどちらの分類に入るか、面白いかもしれませんよ。
(井上素子)