夭折の天才・佐伯祐三の「下落合風景」 その2


こんにちは。
東京は暖かい日が続いておりますが、あっという間に11月も半ばとなりました。実感は全然ありませんが、今年もあと少しです。今年の年末は久しぶりに旅行に行かれるという方や、遠方のご家族やご友人と一緒に過ごされるという方も多いのではないでしょうか。引き続き感染対策をとりながら、お楽しみくださいね。

さて、今週20日(土)は、近代美術/近代美術PartⅡ/コンテンポラリーアート/MANGA オークションを開催いたします。今回も出品作品の中からおすすめの一点をご紹介いたします。
3/27の近代美術オークションに、佐伯祐三の《下落合風景》が出品されたのを覚えていらっしゃる方もおられるかもしれませんが、このたびまた「下落合風景」シリーズの作品が出品されることになりました。
















401 佐伯祐三
《看板のある道》
33.5×45.5cm(額装サイズ 55.0×66.8cm)
キャンバス・油彩 額装 
1926年頃作
裏木枠に署名
『佐伯祐三全画集』(1968年/講談社)№295
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
落札予想価格 ¥8,000,000~¥12,000,000

佐伯祐三(1898-1928)は、パリの街頭の風景を狂おしいほどの情熱で描き、30歳という若さで夭折した画家です。
1924年、25歳で念願のパリに渡った佐伯は、フォーヴィスムの画家ヴラマンクとの出会いを機にその天賦の才を大きく開花させました。パリの裏街の風景、特に歴史と生活感の漂う古びた壁をモティーフに自らの芸術を確立しましたが、1926年に一時帰国することを決意します。
一時帰国中は、留学仲間の里見勝蔵や前田寛治らとともに一九三〇年協会を結成し、同年の第13回二科展で二科賞を受賞。さらに個展も開催するなど、再びパリに旅立つまでのわずか1年4ヶ月ほどの間に洋画壇で華々しく活躍しました。また、「下落合風景」や「滞船」を主題とした連作の制作にも精力的に取り組みました。

1926年頃作の本作も、東京の下落合(現・新宿区中落合)にある自身のアトリエ周辺に取材した「下落合風景」の連作の一つです。通りを作品の主役とし、そこに沿って立つ電柱や歩く人々の姿とともに鑑賞者の視線を画面奥へと導くような構図は、佐伯がこの連作でしばしば用いたものです。特に、電柱は「下落合風景」の重要なモティーフであり、画面に垂直のリズムをもたらしてもいます。そして、生い茂る樹木や赤土の道に見られる、疾走するような情熱的な筆致、絵具をチューブから直接ひねり出したかのような重厚なマチエールには、パリで開花した生来のフォーヴの気質が発揮されています。

また、一部は読み取ることができませんが、「落合倶楽部」、「富永醫院」と書かれているのでしょうか。通りの分岐点に立てられた看板には、佐伯らしい踊るような字形で近所の病院の名前などが書かれています。看板やポスターの文字といえば、第1次パリ時代後半から表され、第2次パリ時代の主要なモティーフとなる佐伯芸術の代名詞。本作では、日本の風景においてもそれらに興味を抱き、線の表現を絵画の要素として取り入れようという佐伯の姿勢をうかがわせます。

以前、当ブログで《下落合風景》の記事を掲載した際にもご紹介しましたが、佐伯の制作メモ、古地図、過去の気象データなどの様々な資料をもとに「下落合風景」シリーズの描画ポイントを特定しておられるブロガーさんがいらっしゃいます。
とても興味深いので、ぜひこちらもご覧ください。

ChinchikoPapa様ブログ「落合学(落合道人 Ochiai-Dojin)」より、「道」の下に「富永醫院」の看板があった。[気になる下落合]


幸運にも、今年は1年のうちに2点も佐伯作品を取り扱うことができましたが、その作品がオークションに出品されるのはとても希少です。ぜひ下見会場で実際の作品をご覧ください。

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(※オークション当日は下見会を開催いたしませんので、ご注意ください)

なお、ご入札は、ご来場のほか、書面入札、オンライン入札、電話入札、ライブビッディングなどの方法でも承っておりますので、お気軽にご参加ください。
新型コロナウイルスの感染予防対策をしっかりと行い、皆様のご参加をお待ちしております。

(佐藤)