ガレとともに、アール・ヌーヴォーを代表する作家として一時代を築いたドーム兄弟。今回は4月19日開催の西洋美術オークションに出品されるドームの作品に焦点を当て、そこに見られる様々な技法を解説するとともに、その魅力に迫ります。

まずは若草色から淡いピンクへと移ろう色彩のグラデーションが麗しい《エキゾチックフラワー文花器》。一般にピンクの発色は極めて難しいとされますが、本作品では穏やかな春を思わせる柔らかな色彩が見事に現れており、卓越した技術を見ることができます。
立体的かつ写実的に造形された花弁や葉は、ガラスが熱いうちに、花器本体に溶着(貼付)されたものです。この技法を、アプリカッシオン、別名、アップリケといいます。

 

 

 

 

 

器腹の表面には、グラヴュールと呼ばれる技法により、繊細な彫刻が施されています。これは、直径が0.5cm〜10cm程の様々な種類の金属円盤(グラインダー)を回転させてガラス表面を研削し、文様や文字を彫刻する技法です。またその細かさに応じて、ムール、ルー、モレット、シズレなどに細分されています。
さらに、エッチング(酸化腐蝕彫り、アシッド)による艶消し加工が施されており、花器の上品な雰囲気を一層高めています。観る者を陶酔へと誘う色彩と装飾に、時代を超えた美を宿した秀逸な作品といえます。

続いて、キンポウゲの花と昆虫が愛らしい《昆虫草花文花器》。ガラスの表面には、あらかじめ不透明なガラスで作られたキンポウゲの花がアプリカッシオンの技法により溶着されています。花の表面には玉虫色の文様が浮かび上がっていますが、これは、熱した色ガラスを混ぜ合わせて練り、花の形に形成した後、表面にグラヴュールによる彫刻を施すことで現れ出たものです。

一方昆虫は、アプリカッシオン技法の一つ、カボションにより、厚みのある無色透明のガラスが溶着されています。これは、ガラスの表面に半球状の丸みを帯びたガラスの塊を溶着する技法で、宝石のカボション・カットに似ていることからこの名が付きました。本作品では花器と昆虫との接着部分に金箔が挿入され、宝石のような輝きが見られます。また、花と同様、昆虫の表面にも、グラヴュールによる繊細な彫刻が施されています。
本体の下部では、色彩が複雑に混ざり合った斑紋状の文様が、重厚な雰囲気を湛えています。これはヴィトリフィカッシオンの技法によるもので、熱いガラスの素地に色ガラスの粉をまぶして付着させ、再び炉の中に入れて焼成し、素地になじませています。ドーム兄弟は1899年にこの技法の特許を取得し、多くの作品に用いました。
本作品は、これらの表現が融和し、アール・ヌーヴォーの特徴である身近な自然や小さな生き物へと焦点を当てた、自然主義的な装飾が見事に花開いています。


アプリカッシオンによる立体的なチューリップが印象的な《チューリップ文彫花器》では、このアプリカッシオンの表面に赤と黄色のマーブル状の模様が浮かび上がっています(写真下)。

これは、先ほどの昆虫草花文花器のキンポウゲと同様の方法で製作されています。まず、熱して溶かした赤と黄色のガラスを混ぜ合わせて練り、花の形に形成します。それを徐冷した後、表面にグラヴュールを施すことにより、複雑な模様を浮かび上がらせています。
チューリップは7つあるうち、2つはアプリカッシオンによるもので、残りはマルケットリーによるものです。これは、ガラスの寄木細工という意味を持ち、加熱した素地に色ガラスの小片を象嵌し、再び熱をかけて文様をつくる方法で、かなり高度な技術を要します。7つのチューリップそれぞれが異なる色彩、形態で表され、表情豊かな仕上がりとなっています。
※象嵌…表面に模様を彫り、そのくぼみにあらかじめ作った別の材料をはめ込むこと。

花器の幻想的な色彩は、ガラスの素地に金属酸化物の粉末をまぶしつけ、斑紋を生じさせる技法、サリッシュールによるものです。
さらに、花器の表面には、槌目(つちめ)模様が彫刻され、柔らかさが加味されています。これはマルトレといい、ドームの作品に多く用いられています。
高度な技術が凝縮された本作品は、独創性と芸術性に富んだ稀有な逸品といえます。

<参考>
Lot303&305: Janine Bloch-Dermant『L’ART DU VERRE EN FRANCE 1860-1914 』Edita Denoel 1974 p.154
Lot304: Ray & Lee Grover『CARVED & DECORATED EUROPEAN ART GLASS』Charles E. Tuttle Company 1970 p.101

 

■下見会のお知らせ■
4月19日(土)開催/西洋美術オークションの下見会は下記の日程で開催いたします。
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シンワアートミュージアム
4
月16日(水)〜18日(金) 10:00〜18:00
4月19日(土)  9:30〜11:30

入場は無料です。 どうぞお気軽にお越し下さい。

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