インターフォンを押して門が開くと、現れたのはコンクリート造りのモダンな建物。玄関前の中庭には放射線状に石が敷き詰められ、その中心に佇む大きなブロンズ像が、訪問者を迎えてくれます。
「モダンな建物」と「西洋美術」という組み合わせはとても自然に融合し、訪れた私たちを早速、西洋美術の世界にいざなってくれます。
リビングに案内していただくと、そこはまさしくT氏ワールドともいえる異国情緒あふれる、それで いて居心地のいい空間でした。
「時代考証で言ったらめちゃくちゃだけれど、自分の個性が出ている部屋だからとても気に入っている」とおっしゃるそのお部屋は、アケメネス朝時代のギリシャの石像や中国の七宝、ガレのコンポート、日本の江戸時代の屏風、フランスのシャンデリアetcが不思議と違和感なく並んでいました。

お父様も西洋美術のコレクターで、身の回りにアンティークのものがあるのが当たり前の環境で育ったT氏は、高校生の頃から懐中時計や小さなランプ、ペーパーナイフなどを買い始め、徐々にセーブルやマイセン、ガレなども集めるようになったそうです。
「今は、実際に使えるものが多いかな。部屋の吊り灯にしても、優雅な時代の作品を配して、それでいてちょっぴり緊張感がある物を選ぶようにしています」というT氏。新しいものを買うときにはご自身の家に置くことや、実際に使うことをイメージされるといいます。そこで、お部屋にあるものの中で特別のお気に入りを伺ってみました。

まず初めにT氏が紹介してくださったのは、セーブル窯の鎬手の飾壷です。大きさ、色の鮮やかさ、花柄の美しさのどれをとっても見事な壷ですが、中でも特に気に入っているポイントは鎬手の部分にあるそうです。
「厚くて出っぱっている凸の部分と薄い凹の部分があるから、普通に窯に入れれば、厚いところは生焼けに、薄いところは焼けすぎてうまく仕上がらないはずでしょう。つまり技術の高い窯でしか制作されない。その中でも最高の作品を手に入れる事で、いつまでも飽きることなく楽しむ事が出来ると思う」。

もう1つのお気に入りは、大きな窓際にある白い大理石の石像です。戦地に赴く兵士を見送る恋人の瞳からは涙がこぼれています。彫りが深く勇ましい兵士と美しい肌の恋人からはもの悲しい雰囲気が伝わってきて、目を奪われてしまうような強い魅力があります。T氏のお話では、西洋美術のコレクターはロマンティックな人が多いとか。
「こういう大理石のものってなかなかないから、置いておくのが楽しい。どこにでもあるようなものじゃなくて、一味違うものを集めると飽きがこなくていいね」。フランスの田舎屋敷にあったものを気に入って運んできたときの話をするT氏の表情は、とても輝いていました。

部屋の模様替えを頻繁にやっているというT氏は、吊り灯はなんと10回以上も変えているそうです。「アンティークを飾っているなんて贅沢だねと言われるけれど、僕から見ればとっても実用的。飽きたらオークションで売ればいいし、買い替えられるのだから無駄がない。しばらく部屋に飾ったり買い替えを楽しんだ分だと思えば、手数料の10%、15%はたいした金額じゃないと思う。今は電気店や家具屋さんで高級なものを買っても、いらなくなったら粗大ごみになっちゃう。僕はそっちの方がずっともったいないと思うんだ」。

「ちょっとだけ勉強して、ちょっとだけ人よりいい趣味を持って上手に買ったら、逆にお金が増えちゃうんだよ」。オークションにもよく参加されるT氏は、買った値段よりも高く売れることの方が多いそうです。ご自身のコレクションがいくらで落札されるのかを見ることも、楽しみの1つのようです。
最後に西洋美術の魅力を伺いました。「西洋美術といっても、時代も国も幅広い領域のものだけれど、日本人の私が魅力に感じるのは、やはりヨーロッパかな。その中でも特にパリの人々が感じ取ったファインアートの世界、空間装飾美術が好き。現代人である私の生活空間を、パリファッションの如くお洒落に飾りたい。これらの美術品に囲まれたスペースを作ることで、時空を越えた西洋の歴史と文化を楽しむことができる。それが私の西洋美術を楽しむ醍醐味かな。」
西洋美術について語るT氏は本当に楽しそうで、お話を聞いている私まで幸せな気持ちにさせてくれます。コレクションすることにルールはなく、「好き」と思う気持ちで集めていくうちに、だんだんと自分のスタイルが出てくるように感じられました。貴重なお話をありがとうございました。