現在、世界各地で年間約60ものビエンナーレやトリエンナーレが開催されているが、その中でも特に「ベネツィア・ビエンナーレ」は、1895年に第一回が開催されて以降、100年以上の歴史を誇る、由緒ある国際芸術展である。
1920年の印象派展では、セザンヌの作品が初めて出品され、1924年にはロートレックとドガが参加している。
戦後は、ピカソ、マグリット、デ・キリコなどの作家達が登場し、60年代以降はアメリカからのポップアートの到来など、時代の先端の空気を反映した展示が行われてきた。あるいは、ビエンナーレが時代の先端を作ってきたといえるかもしれない。
現在は、美術だけではなく、映画(ヴェネツィア国際映画祭)、国際建築展、国際演劇祭、国際演劇祭など、芸術全般にわたる部門を擁し、世界でも最も重要な文化イベントとしての地位を確立している。

今年はこれまでで最多の、76か国のパヴィリオンが参加して、「ジャルディーニ」と「アルセナーレ」の二つのビエンナーレ会場を中心に、11月21日までのあいだ島内各地で展開される。
二つのメイン会場以外にも、メイン会場内にパヴィリオンが建てられなかった国々の展示会場が、街のあちこちに点在していたり、様々なワークショップが開催されている。
まさに街ぐるみの祭典なのである。美術のプロだけでなく、一般の来場者も多い。日本人の顔も方々で見かけた。夏のバカンスついでにビエンナーレを覗くというのも楽しいだろう。

ビエンナーレの展示は大きく分けて二つある。
まず一つ目は、万博と同様に、メイン会場の一つ「ジャルディーニ」に立ち並ぶ世界各国のパヴィリオンで、各国が自国を代表するアーティストの展示を行うという形式の展覧会。各国の特徴、芸術への関心度などが如実に現れ、興味深い。
二つ目は、毎回、ビエンナーレ実行委員会によって任命された総合コミッショナーが、全体のテーマを設定し、そのテーマに沿って選定された作家たちの作品によって構成されるテーマ展。今年のコミッショナーは、ヴェネツィア・ビエンナーレ史上初のアメリカ人、ロバート・ストー氏。企画展のテーマは「Think with the Senses ? feel with the Mind:Art in the Present Tense」(五感で思考し、心で感じる−現代時制のアート)であった。
そして、国別展示と企画展示の双方から金獅子賞が選ばれる。これが、ビエンナーレが「アートのオリンピック」といわれる由縁である。


日本館の今年のコミッショナーとして、写真家で評論家の港千尋氏が選定され、「わたしたちの過去に、未来はあるのか」というテーマのもと、岡部昌生氏による作品を展示した。岡部氏は、広島のかつての軍港である宇品で、建物や路面などの上に紙を置いて鉛筆などで擦り、凹凸を模様として写し取る「フロッタージュ」という技法で制作された作品をおよそ1400点を展示した。会場内には被爆石を置いて、実際に鑑賞者がフロッタージュを体験できるようにもなっていた。
国別に賞を競い合うという形式には否定的な意見もあるが、一方で、それぞれの国の文化政策、芸術に対する関心を示す指標となる側面も確かにある。
日本はというと、3000万円の予算を割いて参加しながらも、国内のメディアでそれが取り上げられることは非常に少ない。
国を挙げて文化政策に乗り出す韓国とまではいかなくとも、イベントとしても大変魅力あるヴェネツィア・ビエンナーレに、より多くの日本人が関心をもってくれれば。と望む声もアート関係者にはある。


ロバート・ストー氏の企画展には、世界中から約100人のアーティストが選ばれた。
アフリカのアートに注目したストーは、自らアフリカを訪れ、アフリカ人アーティストの作品を多く展示に組み入れた。また、日本からも、藤本由紀夫、束芋、加藤泉、米田知子の4人のアーティストが選ばれた。

ヴェネツィア・ビエンナーレは大体いつもバーゼルの開催時期と重なるので、まずベネツィアでいいアーティストを見つけ、それをバーゼルへ買いに行く、という行動パターンを取るコレクターが多い。(ビエンナーレのキャプションには取り扱いギャラリー名が明記されている)

今年はそれにさらに「ドクメンタ」と「ミュンスター彫刻プロジェクト」も重なったわけだ。
「ドクメンタ」と「ミュンスター彫刻プロジェクト」も、それぞれ国際的に活躍するキュレーターによって企画され、これらの展覧会に選ばれるとアーティストのキャリアにとって大きなプラスとなるような影響力を持つ国際展である。

アートフェアと国際展は情報の集積する場所であり、アートに関わる人々だけではなく、各国から国王や政治家が訪れたりと、政済界の社交の場にもなっている。
この夏のヨーロッパの一連のイベントは、今後の美術動向だけではなく、美術作品のマーケットにも大きな影響力をもたらすという意味において注目に値する。